ステムの基礎知識4 (前捻角)

ステムの基礎知識4 (前捻角)

ステムの基礎知識 4

ステムの前念角

前回はステム設置の中間位について説明しました。今回はステムの設置における前捻角について解説します。

 

ステムの最適な設置のおさらい

まずは正常な設置位置についておさらいしましょう。

ステムの最適な設置位置は、

・内外反がなく中間位であること

・前捻角が10°〜15°であること

が良設置の条件でしたね。

他にも脚長差がないことや、オフセットに差がない事などもありますが、術前テンプレートの時点でこれらは考慮されているので、今回も術中のステム設置の話です。

今回は「前捻角」について説明していきます。

 

ステムは前捻角をつけて設置する

まずはヒトの股関節における前捻角を説明します。

通常ヒトの股関節は前方にやや捻れています。「捻れ」といっても、もともとの形態であり、それが正常股関節です。

ヒトの股関節前捻角

前捻角は新生児で大きく、成人までに10°〜15°になる

ステムを設置する際もこの前捻角に合わせ、ややネック部分を前方へ向けて設置します。この設置位置はラスピングの時点で決定します。そのためラスプ作業はただ大腿骨の髄腔を削る作業ではない事がご理解頂けるかと思います。

thaステムの股関節前捻角

ステムの設置もヒトの前捻角同様に設置する

前回の記事で説明した中間位設置と、今回説明している前捻角を適正に合わせた設置が必要であるため前額面も矢状面も的確にラスプする必要があります。ラスピングの時点でステムの設置位置はほとんど決定するので、ラスピングがどれほど重要か分かりますね。

またこれを狭い術野で行うため難易度は高いです。

ラスピングが分からない方は「THAの手術概要 1」を、術野がイメージできない方は「THA・BHAにおける術野はどれくらい?」を確認してみてください。

 

ステム前捻角の不良が及ぼす影響は?

さて、ステム前捻角が大きかったり小さすぎたり、逆に後捻位で設置された場合はどのような事が起こるのでしょうか?

それは

・インピンジメントのリスク向上

・膝関節や足関節への捻転ストレス

が起こります。

まずはインピンジメントのリスクが向上する理由を説明します。

インピンジメントが分からない方はまず「脱臼の原因」を確認してください。

ステム前捻角が不足または過剰な状態で設置されるとどのような位置関係になるのでしょうか?

それがこちらの図です。

tha前捻角の影響1

大腿骨を見かけ上の内外旋中間位にした場合の位置関係

大腿骨を見かけ上の内外旋中間位にすると、ステムのネック部分が後方または前方へ移動しているのが分かると思います。左図の過前捻での設置の場合の位置関係では後方インピンジが起こりやすいのは想像しやすいと思います。カップの後下方部分にインピンジしやすくなります

つまり伸展内転外旋においての前方脱臼のリスクが増大します。

また、図は2Dですので少し分かりにくいですが、後捻位または前捻角不足で設置された場合はネック部分がカップの前上方にインピンジしやすくなります

つまり屈曲内転内旋においての後方脱臼のリスクが増大します。

 

次に膝関節や足関節に捻転ストレスがかかる理由を説明します。

THAで膝関節や足関節に影響あるの?と思う方もいらっしゃいますが、影響がでる場合があります。

大腿骨が見かけ上の内外旋中間位である場合はカップとネックの位置関係に変化が出るのはいま説明しましたね。

それではカップとネックの前捻が適正にある場合の位置関係はどのようになるのでしょうか?

それがこの図です。

tha前捻角の影響2

ネックとカップの位置関係を適正にした場合の位置関係

カップとネックの位置関係が適正な位置にある場合の大腿骨の見かけ上の変化が分かると思います。

前捻角が大きい場合は大腿骨は内側を向き、内旋します。

前捻角が小さい場合は大腿骨は外側を向き、外旋します。

当然この状態では膝関節は外旋(内旋)し足関節は内旋(外旋)した状態での立位となり、常に捻転ストレスがかかっている状態が発生します。

その状態で歩行を続ければ各関節には負担がかかり続けます。この辺は理学療法士の方々は詳しいと思います。

せっかくTHAを行い股関節の痛みがなくなり嬉しくて歩き始めたら今度は膝や足が痛いなんてことは避けたいですね。

 

ステム前捻角の確認方法

ではステム前捻角はどのように確認するのでしょうか?

ステム前捻角は矢状面から撮影したレントゲンにて確認できます。まずは下の図を見てみましょう。

tha前捻角の確認方法

左はBHA、右がTHA。ステムの良設置はどちらのオペにおいても重要。

ステム軸(骨軸)に対してステム頸部軸がどの程度傾斜しているかで確認できます。

この場合は右のレントゲン写真はステム前捻角が不足しているのが分かります。

 

さて、このステム前捻角も前回の内外反設置と同様、執刀医は必ず確認します。理学療法士の方などのセラピストの方々はどうですか?ご自身の担当THA(BHA)患者さんのステム前捻角は確認していますか?

THA後に膝関節痛や足関節痛が出現している患者さんがいれば、原因のひとつとして影響しているかもしれません。ぜひ確認してみて下さい。

 

ステムの最適設置について2部構成で説明しました。

レントゲンでの確認の仕方も含めて解説しましたので、皆様の業務に活かして頂ければ幸いです。

ステムの基礎知識として、ステムの種類を説明していきますが、次回はその前に大腿骨の髄腔のタイプを説明します。髄腔形状の違いにより使用ステムが異なる場合が多いので、次回はまず髄腔形状タイプを把握しましょう。

 

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