ステムの基礎知識3 (最適な設置とは)

ステムの基礎知識3 (最適な設置とは)

ステムの基礎知識 3

最適な設置位置

前回はセメントレスステムにおける固定方法を説明しました。

今回はステムの良設置位置について解説します。

 

ステムの最適な設置とは?

大腿骨に挿入されるステムはどの位置が最適なのでしょうか?まずは正常な設置位置について知っておきましょう。

ステムの最適な設置位置は、

・内外反がなく中間位であること

・前捻角が10°〜15°であること

が良設置の条件です。

他にも脚長差がないことや、オフセットに差がない事などもありますが、術前テンプレートの時点でこれらは考慮されているので、今回はあくまで術中のステム設置の話です。

今回は「中間位設置」を説明していきます。

 

ステムの内反・外反とは?

ステムは中間位(まっすぐ)に設置しなくてはいけません。パターンとしては内反位設置になってしまう場合が多く、外反位設置になる場合は割りと少ないです。

内反位設置とはtha

骨軸に対し、ステム軸がズレずに設置されていれば中間位設置です。骨軸と比較して確認できますので、ステム長が長いロングステムの場合は簡単に確認できます。

しかしショートステムの場合はステム軸が把握しにくく、分かりづらいです。

ショートステムは内反が分かりにくいtha

術中のショートステムの設置はロングステムよりやや難しい

ショートステムの場合は、皮質骨の描くカーブと、ステムの曲線が適しているか?という考え方で見てみると分かってきます。ただしステムの固定コンセプトは様々ですので、一見すると内反しているように見えてもコンセプト通りの位置に設置されている場合もあるので注意が必要です。

また、「THA・BHAの術野はどれくらい?」の記事でも説明しましたが、THA・BHAにおける術野は非常に狭く、骨軸を正確に把握することは困難です。そのために外観から骨軸が把握できるように様々な工夫がされますが、未だに確立された方法はありません。

内反位や外反位でステムが設置されると何が起こるのでしょうか?

もし内反や外反で設置された状態で荷重がかかるとステムは何mmか沈み込みます。

内反位設置によるstemの沈み込みtha

沈み込みが起こると結果として脚長差が生じます。脚長差は次のセクションで説明します。

また、内反位設置によって単純に沈み込んで中間位で安定してくれれば良いですが、ステムの内反位設置はルースニングを引き起こす場合があります。ルースニングとは緩みの事で、グラグラしてしまっているイメージですね。

この状態で荷重を行っていると、皮質骨に局所的に圧がかかり続け、骨肥厚が起こる場合や、最悪の場合は骨折が起こります。

内反位設置による骨折tha

骨密度や体重、活動量も関係してくる

ステムを中間位に設置することは非常に重要なんですね。

また外反位設置も、内反位設置を発生することは同じで、沈み込みとルースニングです。発生機序も上記の説明と同じと考えて頂いて構いません。

 

脚長差の見方は?

さて、ではステムの沈み込みにより発生する脚長差の説明をします。

ステムが沈み込むと当然その分の脚長差が生じます。

臼蓋形成不全が強い場合など、脚長差がどうしても発生せざるを得ない場合もあります。その場合は脚長差が発生している状態で関節包のテンションを「術中のトライアル」時に調整していますので、術後は大きな問題にはなりません。

しかし関節包のテンションを調整して閉創までした後に起こる、内反位設置による沈み込みからの脚長差は、関節包のテンションが緩み脱臼のリスク増大と筋出力の低下が起こります。

そういった意味でも中間位で設置することは非常に重要です。

 

さて、脚長差は一見すると見逃しがちです。ステムの内外反は割りと容易に確認できますが、脚長差をしっかり確認するにはレントゲンを良く見なければなりません。

では脚長差はどのように確認するのか説明していきます。

まず両側の涙痕を結んだ直線を引きます。この線が基準となります。その基準線に対し、小転子トップとの距離の差、または大転子トップとの差で確認します。

図で説明するとこうなります。

脚長差の確認方法1tha

このレントゲンではやや術側が短くなっている

基本はこのように両側の涙痕を基準線とし、小転子(大転子)からの距離で比較します。結構面倒な確認方法ですが、これが基本です。

ただ、実はもっと簡単に視覚的に確認する方法もあります。両側涙痕を結んだ基準線をそのまま遠位方向へ平行移動させて比較する方法です。

平行移動させた線が小転子または大転子部分へ重なった位置で視覚的に脚長差を判断できます。

脚長差の確認方法2tha

この方法はすぐ確認できるため術中レントゲンで行われることが多い

現在のレントゲンのソフトではPC画面に線が引けるので、簡単に確認できると思います。

脚長差はただレントゲンをパッと見ただけでは見逃しがちです。執刀医は必ず確認しますが、理学療法士等のリハビリを担当するセラピストの方々は見逃している場合が多いです。自身の担当の患者さんのレントゲンを確認してみてください。

 

ステムの内反(外反)位設置に関してご理解頂けたでしょうか?

次回はステムの前捻角について説明していきます。

 

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