THA手術の概要 2
- 2018.02.22
- THA・BHA
THA手術の概要2
前回の記事でTHAの手術の概要を説明しました。
少し復習すると、
・皮膚→脂肪→筋→関節包を切開
・大腿骨頸部を骨切り
・大腿骨頭の抜去
・臼蓋側の処理(リーミング)
・大腿骨髄腔の処理 (ラスピング)
・インプラントの設置
・洗浄して縫合 という流れでしたね。
実はここに記載していない手順があります。
それが「トライアル」という手順です。トライアルとは何かをまずは説明していきます。
トライアルって何?
トライアルとは、実際に身体に入れるインプラントと全く同じ形のお試しのインプラントの様なものです。これだけだと意味が分からないと思うので順を追って説明します。
身体に入れるインプラントですが、実際にいれて縫合した後にサイズが大き過ぎて関節包のテンションがパンパンに張ってしまい可動域制限が著しい、なんて事態になっても「ではもう一度入れ直しましょう」とはなかなかいきません。
一度インプラントを設置して縫合したら余程のトラブルがない限り再手術(再置換)は行いません。なので、ぶっつけ本番でインプラントを入れてしまうのはリスクがありますよね。
そこで活用されるのが「トライアル」です。
実際に入れるインプラントサイズと互換のあるトライアルで試しに入れてみて、縫合しない状態で関節を動かし、可動域や関節包のテンションを確認するのです。
THAのステムトライアルで説明すると(下図参照)、
まず大腿骨にステムトライアルを挿入します。その後ネックトライアル、ヘッドトライアルを取り付け、一度整復します。この時点では縫合は一切しておりませんし、完全に関節は開いている状態です。
ステムトライアル = ラスプ
例えば、サイズ3のステムトライアルを挿入して動かしてみたら少し緩い、なんて時はサイズ4のステムトライアルに入れ替えて動きを確認します。
サイズ4のトライアルで動きもキツさも問題ないと判断されれば、実際に挿入するインプラントのサイズはサイズ4のものを入れる、となる訳ですね。
※上記手順はツヴァイミューラータイプのステムの場合
また、インナーヘッドにもサイズ(径ではなく高さ)があるためヘッドで関節包のテンションを調整する場合もあります。テンションがキツい場合はマイナスヘッドをトライアルし、テンションが緩い場合はプラスヘッドをトライアルして関節包のテンションを確かめます(オフセットの調整)。
ネック部分のサイズ段階は各メーカーによって異なる。上図は3.5mmピッチ
ヘッドでオフセットが調整可能な訳です。もちろんオフセットにはステムのサイズも大きく影響します。
オフセットが分からない方は「レントゲンから見る脱臼のリスク3」を参照して下さい。
よく「トライアル」に対して実際に入れるインプラントは「本物」と言われる事が多いです。
なので術中に「ステム(トライアル)4番で調子良いから4番の本物用意して」などという会話がある訳です。言うなればトライアルは身体に入れる本物のインプラントに対する偽物ですね。仮のインプラントという立ち位置です。
全てのインプラントにはトライアルがある?
ステムトライアルを例に出して説明しましたが、トライアルは全ての本物インプラントに対して存在します。THAにおいてもカップ・ライナー・インナーヘッド・ステムに全てトライアルがあります。
ステムトライアル。上図は左右対象の形状でないステムの例。
上図はステムのトライアルです。ステムトライアルはラスピングの際に使用されるラスプそのものです。前回少し説明しましたが、ラスピングの際に使用されるラスプは適正サイズまでラスピングしたらすぐには抜かず、そのまま髄腔内に残してトライアルとして使用します。
カップトライアルに開いている穴はスクリュー孔ではなく、トライアル越しに臼蓋骨を見るためのもの。
カップトライアルはリーミングの際のリーマーとは別です。リーマーは臼蓋を削るための刃がついており、トライアルはツルツルしています。
また、カップトライアルは行わない医師が多いですが、ステムトライアル・インナーヘッドトライアルは必ず行います。また、ほとんどの病院は術中にレントゲンを撮影します。これはトライアルを入れた状態でレントゲンを撮影し、脚長差やオフセットに左右差が出ていないか確認する訳です。
トライアルはインプラント設置の前
トライアルの意味をご理解して頂いた上でTHAの手順に話を戻します。
術中トライアルはどの場面で行うかもう分かりますよね?そう。インプラント設置の前ですね。トライアルをしてから本物を設置する手順です。つまり、
・皮膚→脂肪→筋→関節包を切開
・大腿骨頸部を骨切り
・大腿骨頭の抜去
・臼蓋側の処理(リーミング)
・大腿骨髄腔の処理 (ラスピング)
・トライアル ⇐ここ
・インプラントの設置
・洗浄して縫合 という事です。
読んで頂いてお分かりのように、トライアル作業は非常に重要です。トライアルを挿入した状態で関節がうまく動かない場合や、骨棘が引っかかる場合などは必ず処理を行い、トライアルにて良い動きが確認できるまで本物のインプラントは挿入しません。この「良い動き」とは執刀医の感覚で判断されます。そのため関節包のテンションの感覚の判断などは何回も助手としてオペに入りながら先輩医師の指導の下で習得していきます。
関節包のテンションを数値化している病院もあります。トライアルにかかる圧を計測したり、◯kg圧をかけた時に何mm動くか、等で数値化しています。行っている病院は少ないですけどね。
各アプローチの記事、それと前回の記事と併せて確認すればTHAの手術の流れはご理解頂けたと思います。
実際のオペは軟部組織の処理など他にもたくさん行う事はありますが、大まかな流れは説明した通りです。
「侵入経路」「リーミング」「ラスピング」「トライアル」もう全て分かりますね。
今回はここまでです。
次回からは各インプラントの特性を説明していきます。
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