レントゲンから見る脱臼リスク 3

レントゲンから見る脱臼リスク 3

レントゲンから見る脱臼リスク3

レントゲンから読み取れる脱臼のし易さの目安の第3です。「レントゲンから見る脱臼リスク2」にてインナーヘッドの大きさと脱臼の関係を説明をしました。

今回は同じく脱臼のし易さの目安として「関節包のテンション」について説明します。

  1. カップの設置位置(THA)
  2. インナーヘッドの大きさ(THA)
  3. 関節包のテンション
  4. 術式

の3番です。

 

関節包のテンションって何?

皆さんは「関節が緩い」という表現を聞いたことがあると思います。まず関節が緩いとはどのような状態なのでしょうか?

簡単に言うと関節が動きすぎる状態のことです。よくテレビ等でビックリ人間等で出演している脚が変な方向に動く人、あれなんかは完全に関節が緩い状態ですね。

例えばこんな人です。

軟体人間

Julia Guntelというロシアの女性。世界で最も身体が柔らかい女性としてギネスにも認定。

これは明らかに脊柱や股関節が過剰に動いていますね。特に腰椎が怖いくらい伸展しています。

これは単純に筋肉の柔軟性が高いだけではなく、関節を包んでいる関節包やその周囲の靭帯が緩い状態でないとここまでは動きません。ちなみに関節包や靭帯は長い長い時間をかければ伸張はされます。

 

さて、このように関節が緩い状態、つまり関節包のテンションが低い状態だと関節の可動域に大きな影響を与えます。

関節包のテンションが高いと可動域は狭く、テンションが低いと可動域は広がります

関節の拘縮なんかは関節包が固まってしまっている状態ですね。

当然のことながら、関節包のテンションが低く関節が緩い状態では脱臼が起こりやすいです。逆にキツキツだと脱臼はまず起こりません。そのかわりに可動域は小さくなり、突っ張り感が出現してしまいますが。

 

Offsetって何?

それではレントゲンから関節包のテンションを把握する方法を説明していきます。

そのためにはまず「Offset(オフセット)」を理解しなければいけません。一般的にOffsetという言葉の意味は、ある基準点からどれだけ離れているかを表す数値とされています。

股関節のレントゲンにおけるOffsetとは、前額面において骨盤中心または骨頭中心からどれくらい外側へ離れているか?を意味します。

また、この場合のオフセットには2種類あり、「Acetabular Offset」と「Femoral Offset」があります。(アセタブラーオフセット・フェモラルオフセット)

Acetabularとは臼蓋を意味し、Femoralとは骨頭を意味します。

つまり臼蓋からどの程度離れているか?骨頭からどの程度離れているか?がこの場合のオフセットの概念です。

分かりにくいので図で説明します。

Offsetとは

向かって左がAcetabular Offset、右がFemoral Offset。

Acetabular Offsetは臼蓋中心から骨盤中心までの距離、といっても実際に計測するのはインナーヘッドの中心から恥骨結合からの垂直線までの距離です。

Femoral Offsetはインナーヘッドからステム中心軸までの距離です。

この2つのオフセットを確認して関節包のテンションを予測します。

 

Offsetが大きい(小さい)とどうなるの?

さて、それではOffset(オフセット)が大きすぎたり小さすぎたりするとどのような状態になるのでしょうか?説明していきます。

レントゲンには映りませんが、当然カップとヘッドの外側には関節包があります。Offsetが大きくなると関節包は伸張され、テンションの高い状態となります。またOffsetが小さいと関節包はたわみ、緩んだ状態となりテンションは低くなります。

 Offsetが大きい→関節包のテンションが高い

 つまり、脱臼のリスク低下・可動域制限・大腿外側の突っ張り感

 

 Offsetが小さい→関節包のテンションが低い 

 つまり、脱臼のリスク向上

 

たまにTHA術後に「歩くと大腿の外側が突っ張ってきて痛い」と訴える患者さんがいると思います。こういう患者さんはOffsetが大きくなっている場合が多いです。また、術後に可動域が広がり抵抗感も低くなった患者さんはOffsetが小さくなっている場合が多いです。

つまりは関節包のテンションが手術前後で変化しているということです。

 

オフセットは健側と比べる

では何と比べてAcetabular Offset(アセタブラーオフセット)とFemoral Offset(フェモラルオフセット)が大きい、または小さいのでしょうか?

それは健側のOffsetと比べてです。健側のOffsetを基準とし、それに対してOffsetが大きいか小さいかを確認します。両側THAの患者さんは左右差を目安にします。

それでは早速レントゲン写真を確認してみましょう。

Offsetの確認

骨盤中心・骨軸中心・骨頭中心に点線またはポイントを置いた

パッと見るだけでは分かりにくいですね。今のレントゲンのソフトは計測ツールがあるのでそれを使うと正確に分かります。今回は分かりやすく2つのOffsetに線を引いてみました。

Offsetの解説

健側と比較すると術側はAcetabular Offsetが小さくなっています。Femoral Offsetにあまり差はありませんね。関節包のテンションが若干低下していることが予測できます。

ベストはAcetabular OffsetもFemoral Offsetもどちらも健側と比較して差がない事が理想です。

Acetabular OffsetもFemoral Offsetもどちらも関節包のテンションに影響します。逆に、どちらかが長くてもどちらかで短くなっていてトータルのOffsetが変わらなければ関節包のテンションは変わりません

Acetabular OffsetとFemoral Offsetの違いは、カップ設置位置の影響によるものかステムサイズの影響によるものかの違いです。オフセットの概念としては同じですので、どちらのオフセットが大きく(小さく)なっていても関節包のテンションは高く(低く)なっています。

術前のテンプレートの時点でCUP設置位置やStemサイズを決める際に区別するためのものですね。THAのテンプレートの仕方なんかも今後は解説していければと思います。

ちなみにBHAはやTHAのテンプレーティングは研修医がよくやらされる作業です。

 

話が逸れてしましましたが、このようにレントゲンから関節包のテンションを予測できます。

これでレントゲンから確認できる脱臼のリスクの3つの説明が全て済みましたね。

  1. カップの設置位置(レントゲンから見る脱臼リスク1
  2. インナーヘッドの大きさ(レントゲンから見る脱臼リスク2
  3. 関節包のテンション(この記事です)

さてこれら3つの因子を理解した上でTHA患者さんのレントゲンを改めて確認してみてください。

新たな視点でレントゲンを見ることができます。これらの因子はレントゲン技師でも知らない場合が多いですので知っていると一目置かれますよ。

 

次回は脱臼率について紹介していきたいと思います。

 

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