応力遮蔽(Stress Shielding)とは

応力遮蔽(Stress Shielding)とは

応力遮蔽(Stress Shielding)とは

前回はHip Prosthesis Zoneについて説明しました。ステムやカップ周囲の骨の場所はもうZone◯といった数字で示せると思います。

今回はステム設置後に起こる骨折に関して重要な、応力遮蔽Stress Shieldingについて説明したいと思います。

 

ステム設置後の骨折

まずはTHAやBHAにおける術後の骨折について説明します。

ステムの最適な設置とは」で説明した通り、内反設置やルースニングによってステムの不安定性が残ると最悪の場合術後に骨折が起こります。

しかし設置がうまくいっても、術後に骨がどんどん萎縮していってしまう場合も骨折のリスクが向上します。

tha・bha術後骨折

このように術直後は安定していても、術後に何らかの原因で骨の脆弱化が進むと荷重や立ち上がり動作だけで骨折する場合があります。

ではなぜステム設置後に骨が脆弱化するのでしょうか?まずはヒトの骨の特徴を理解しましょう。

 

骨は荷重がかからないと弱くなる?

ヒトの骨は荷重がかかっていないと弱くなります。特に大腿骨等の長管骨は軸圧がかからなくては骨萎縮が起こり、骨の脆弱化が進んでしまいます。

荷重不足による骨萎縮

骨密度低下は様々な原因があるが、軸圧不足も原因のひとつである

ステム設置後も同様で、ステムの固定部分に荷重がかかりBone ingrowthが起こります。例えば近位固定のステムであれば近位のポーラス部に荷重が伝達されます。つまり固定部位から荷重は皮質骨に伝達されます。そのため荷重がかかる部分の骨強度は術前と変わらず維持されます。

しかし荷重が伝達されない部分の骨はどうしても弱くなり脆くなってしまいます

ステム設置後に、一部の骨への応力(荷重)がかからなくなる現象を応力遮蔽と言います。ではステム設置後に一部の骨に荷重がかからないとはどのような事なのでしょうか?

 

応力遮蔽とは?

応力遮蔽(おうりょく-しゃへい)とは、荷重による「応力」を「遮蔽」するというそのままの意味です。遮蔽とは遮る(さえぎる)という意味ですので、荷重による応力を遮ってしまう現象のことです。英語でStress Shieldingといい、日本語読みでストレスシールディングと言います。

文章では分かりにくいと思いますので図で説明します。

例えばこんなステムがあったとします。

ステム応力遮蔽のイメージ tha bha

上図のステムは近位部分が骨皮質と一切接していないため、ステムの遠位固定部分より近位の骨には応力はほとんど加わらなくなります。そのため近位骨はどんどん骨萎縮していきます。

これが応力遮蔽(Stress Shielding)による骨萎縮です。

 

 

実際のステムでのStress Shielding

基本的にステム設置が良好な場合、Stress Shieldingは固定部位より近位に発生するので、Stress Shieldingは遠位固定型ステムで起こりやすいです。

遠位固定型ステムの荷重伝達を見てみましょう。

遠位固定ステムの応力遮蔽

上図のように、Headからの荷重はステムの中を通り、ステム遠位の皮質としっかり密着している部分に流れていきます。

そのため近位の皮質との接触が甘い部分には荷重は伝達されにくい設計になっております。

そのため遠位固定型のステムは活動量の多い患者さんのTHAには(THAなどは50代〜60代の若い症例が多い)あまり向きません。

※THAにも遠位固定型ステムは使用されることはあります

 

そのためTHAには近位固定型ステムが多く選択されます。

しかしBHAは逆ですね。

BHA(人工骨頭置換術)について書くのは久々ですので、皆さん忘れていませんよね?

もしBHAってどんなのだっけ、という方は「人工骨頭置換術とは」、「BHAの適応1」、「BHAの適応2」を確認してください。

BHAは圧倒的にご高齢の方に多いです。BHAの適応は大腿骨頸部骨折ですので、加齢により骨密度が低下している方に多いのは当たり前ですね。

そのため骨質が悪く、Dorrの分類のTypeCの髄腔形状の方も多いです。そのため近位固定型ステムは向かず、遠位固定型ステムが選択される場合が多いということですね。

そもそも50代60代と比べ、どうしても活動量が低い高齢者ですので、仮に遠位固定型ステムによるStress Shieldingが起こってもあまり大きな問題にはなりにくいといった形です。臨床上、遠位固定型ステムで問題となるようなStress Shieldingは少ないです。

ステムは表面置換ではないため少なからずStress Shieldingは起こります。起こっても問題にならない場合も多く、ステムの設置が最適な設置であれば日常生活に問題ありません。

しかし問題となってくるようなStress Shieldingもあります。

次回はステムの設置不良からなる問題となるStress Shieldingについて説明したいと思います。

 

 

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