ステムの基礎知識2 (ステムの固定方法)
- 2018.02.27
- THA・BHA
ステムの基礎知識2
セメントレスステムの固定方法
前回の記事で股関節ステムにおけるセメントの使用と非使用の違いについて説明しました。
後半で初期固定と長期固定について触れましたが、今回はセメントレスステムにおける初期固定の説明をします。
ステム固定における皮質骨の役割
さてステムを設置した直後の固定はどのように成されているのでしょうか?
セメントステムであれば10分程度で骨セメントは固まり、術後早期に強固な固定が完成します。セメントステムにおいては「初期固定 = 長期固定」と考えて良いです。
セメントレスステムではおよそ半年程でBone ingrowthまたはBone ongrowthが起こって長期固定が完成しますので、その半年間の固定力はどのように確保されているのでしょうか?
初期固定をご理解頂くために、まずは大腿骨の基礎解剖を簡単に説明します。このセクションは基礎解剖ですので十分把握しておられる方は飛ばして貰っても問題ありません。
ヒトの骨は2種類から構成されています。
「皮質骨」と「海綿骨」です。
皮質骨は概ね骨の外側を構成しており、海綿骨に比べ遥かに硬く、体を支える役割を果たします。海綿骨は皮質骨の内側にありスポンジ状で柔らかく、皮質骨に比べ代謝が盛んです。
セメントレスステムは基本的にこの皮質骨に固定されます。
どういうことかと言うと、硬い皮質骨にステムが噛み込んで、または、はまり込んで固定が成されます。セメントレスステムには種類がいくつかあり、それぞれがやや異なる固定方法です。しかし基本的にセメントレスステムは全て皮質骨を利用した固定方法です。
皮質骨のどこで固定されるのか?
セメントレスステムは硬い皮質骨に固定されます。では皮質骨のどこの部分で固定されるのでしょうか?
ステムのデザインによって様々な位置で固定されますが、大きく分けて皮質骨の「近位部」「遠位部」の2種類です。
青で着色した部分の皮質で固定される
それぞれ「近位固定」、「遠位固定」と言われます。
近位部〜中間位、中間位〜遠位部とやや曖昧に言われますが、基本的に近位か遠位での固定にデザインされているステムが多いです。
ちなみに、短いステムは基本的に全て近位固定ですが、長いステムが遠位固定とは限りません。長さがあり一見遠位固定ステムに見える場合もありますが近位の皮質で固定されるというステムも多いです。
どのように固定されるのか?
では皮質にどのように固定されるのでしょうか?
先程から、噛み込む や はまり込む といった表現で記載してきましたが、実際にどのように固定されるのかを解説していきます。
まず固定されるのは皮質骨にステムが強く接していなくてはなりません。ステムがどのように接しているかというと、大きく分けて「面」と「角」の2種類です。
「面」で接する場合はステムの内外側面で接する場合と、ステムの全体で接する場合とがあります。
「角」で接する場合はステムの四隅の角で接する場合と、複数の角で接する場合とがあります。
ステム断面のイメージ。
実際のステムによって断面はそれぞれ異なる。また接する位置は左図の断面位置という訳ではない。
当然、ステムの形状デザインによって断面はそれぞれですが、基本的にこの4種類の接触の仕方で固定されます。
赤線で示した部位で接触し、ステムの回旋抵抗力や、沈み込みに対する抵抗力を発揮します。面で接触する場合はステムが皮質に押し込まれているイメージです。角で接触する場合はステムが皮質に食い込んでいるイメージです。
模式図で解説すると何だか固定力が弱そうに見えますが、実は非常に強力な固定力です。
例えば模擬骨に実際のステムを打ち込むと、抜くのに相当苦労します。また、Cadaver Training(ご遺体を使った手術手技研修)で実際の骨にインプラントを打ち込むと本当に抜けませんし、手で動かそうとしたくらいではビクともしません。抜くのに仕方なくご遺体の骨を割る事もあるくらいです。
それくらい初期固定は強力です。そもそも体重を支える程の固定力がなければTHA・BHAは成り立ちませんしね。
初期固定から長期固定へ
セメントレスステムの初期固定は皮質骨に固定されることがご理解頂けたかと思います。この皮質に接している部分はポーラス加工がされているので、接触が続いていれば骨新生によりポーラス部に形成された骨が入り込んでいく仕組みです。
これによりおよそ半年で、前回の記事で説明したBone ingrowthまたはBone ongrowthが完成します。そうすることで長期固定が成される仕組みです。「ステムの基礎知識 1」参照
実はセメントレスステムの初期固定は、理論上は今回説明した方法で固定されますが、実際のところ設計通りいかない場合もあります。
過去のステムの歴史を見てみると、初期固定がうまく成されずにステムのグラつき、または沈み込みが頻繁に起こるために製造中止となってしまったステムもあります。
ステムのトラブルは執刀医のスキル不足による設置不良の問題、ステムデザインの問題と様々です。
次回はステムの設置不良について解説していきます。
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