THA-LINERの技術進化

THA-LINERの技術進化

 大きいインナーヘッドが選択可能になった理由

前回の記事「レントゲンから見る脱臼リスク1」でインナーヘッドは大きい方が脱臼しにくい、と説明しました。また昔は小さいヘッドが使用されていましたが、最近はほとんどが大きなヘッドである事を述べました。

大きなヘッドが使用できるようになったのには理由があります。もう少し言うと、昔は大ヘッドを使いたくても小さなヘッドしか使用できなかったのです。それはなぜでしょうか?

今回は「レントゲンから見る脱臼のリスク3」を書く前に、大きなヘッドが使えるようになった理由について説明したいと思います。

 

昔は小さなヘッドが選ばれていた?

上記を理解するにはまずTHAで使用されるインプラントをもう少し詳しく理解しなければいけません。THAの基本的なインプラントは「THA・BHAにおけるインプラントの種類」を確認してください。

THAには臼蓋骨に設置するTHAカップというものがありました。ではそのカップの構造を少し詳しく見ていきます。

実はカップには「ライナー」というインプラントがセットでついています。それがこれです。

THA構造

摺動(しゅうどう)とは滑って動くことの意。つまりこの場合の摺動面とは、Headとの接触面であり、Headが可動する時に擦れて動く面のこと。

ライナーの素材はポリエチレンで、カップとヘッドの間に挟むことにより、カップ−ヘッド間での金属摩擦を避ける役割があります。ポリエチレンは極端に言うと消耗品です。しかし手術にて身体の中に入れるものですので簡単に消耗してしまっては困る訳です。「ライナーが傷んできたので再度手術して取り替えましょう」なんて事態は極力避けたい訳ですね。

ちなみに消耗するとこうなります。

劣化したLiner

術後によく歩き回る人は、活動量の低い人に比べ耐久限界時期が早い。

しかし当然インナーヘッドが可動しますので、ある程度の摩擦は避けられません。そのため昔はライナーの寿命を長くするためにライナー自体を厚くする必要があった訳です。

ライナーが厚くなれば当然その内側のインナーヘッドは小さくなります。

模式図で説明するとこんな感じです。

HeadとLinerの関係

・ライナーを厚くすればヘッドは小さくなる。

・ヘッドを大きくすればライナーは薄くなる。

つまり脱臼のリスクを負ってライナーの寿命を長くするか、ライナーの寿命を短くして脱臼のリスクを軽減させるか、という状況である訳ですね。

インナーヘッドの大きさと脱臼の関係は「レントゲンから見る脱臼リスク2」で説明しましたね。

このような理由で、昔は小さいヘッドを使用してライナーを厚くし、使用可能期間を伸ばして長持ちさせよう。という考えを優先していた訳です。

つまり小ヘッドでの脱臼リスクのデメリットよりも長期間使用するメリットを優先していたということです。

 

最近のライナーは薄くて硬い?

では最近はインナーヘッドが大きいものを使用できるようになった理由を説明します。

それはライナーを薄くしても使用可能期間を確保できるまでに質が向上したからです。薄くても丈夫で使用可能な期間の長いライナーができたために、大きなインナーヘッドを使用することができるようになったのです。

ではどのようにポリエチレンの質を向上させたのでしょうか?

まず、ポリエチレンの身体内における劣化とは「摩耗」と「酸化」です

摩耗はポリエチレンを硬くする事ができれば解決することができます。実は、最近のTHAのポリエチレンライナーにはクロスリンク処理というものがなされています。具体的に説明すると、ポリエチレンは各分子が横に一列に配列され、横同士の結合は強いのですが、各列同士の結合は弱いのです。クロスリンク処理を行うことで列同士の配列が縦でも繋がり、結果として硬度が高まります。

Poliの構造

ポリエチレンはC(炭素)とH(水素)で構成され、クロスリンク処理はCo60のγ線を照射することで反応が起こる。またこの技術は医療業界以外にも様々な業種で活用されている。

クロスリンク処理により硬度が高まると摩耗による劣化が起こりにくくなり、薄いポリエチレンライナーでも使用可能期間が伸びたという訳です。そのため大きいヘッドを使用して脱臼のリスクを軽減させながらにして薄いでもライナーの寿命を確保できるようになったのです。

この技術が導入されてからはほとんどのTHAではヘッドは最大限大きいものを使用します。しかし身体の小さな女性等はどうしてもTHAカップ自体が小さくなるので小さいヘッドを使用せざるを得ない場合もあります。

 

最新のライナーは硬いだけじゃない?

最近の技術としてライナーの寿命を延ばしたものがもう一つあります。それはビタミンEを混合させることです。

ライナーの劣化は摩耗と酸化だと上で述べました。ビタミンEを混合させることにより酸化するスピードを遅く出来たのです。ちなみにこの技術は日本のある整形外科インプラントメーカーが開発に成功しました。整形外科領域企業の圧倒的に外資メーカーが多い中、日本の企業が開発したことは嬉しい事ですね。

ちなみにポリエチレンライナーは基本的に白色をしているのですが、ビタミンEを混合させると黄色くなります。

Vit-Eでの色の違い

ライナーにおけるビタミンE混合は、混ぜ込む製法と表面に塗る製法がある。日本企業は混ぜ込む製法である。

従来のライナーを「白ポリ」、ビタミンE混合のライナーを「黄色ポリ」と呼んだりします。

これにより酸化による劣化が抑えられ、さらに寿命が伸びる訳ですね。現在THAにおいて、ほぼ全てのメーカーがポリエチレンライナーにはクロスリンク処理を行ったものを提供しています。しかしビタミンEを混合しているポリエチレンライナーを提供しているメーカーは2社しかありません。実は結構コストもかかるんですね。

 

 

さて、長くなってしまいましたが今回はインナーヘッドが小さくできた理由について説明しました。知っていると雑学的に良いかもしれません。

 

次回はいよいよレントゲンから読み取れる関節包のテンションについて説明します。

 

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