関節GAPは何で変化する?

  • 2019.10.23
  • TKA
関節GAPは何で変化する?

関節GAPは何で変化する?

前回は関節GAPの概念について説明しました。
実際にインプラントを設置した際に予想される関節のキツさを確認していると説明しましたね。

今回は関節GAPに影響を及ぼすものは何かを説明します。
GAPを理解する上でこれも重要な概念です。

骨切り位置によりGAPは変化する

骨切りはダイレクトに関節GAPに影響を及ぼします。
切り過ぎればGAPは大きくなりますし、切らな過ぎればGAPは小さくなります。
骨切りライン(骨切り位置)をどこにするかで関節GAPは変わります。

ではどこの骨切りがどの関節GAPに影響を及ぼすのでしょうか?
TKAの骨切りを把握していない方はまずはTKAの骨切りについてを参照ください。

まず、TKAにおける術中の関節GAPには伸展GAPと屈曲GAPがありました。
それぞれのGAPに影響を及ぼす因子を説明します。
 

伸展GAPと骨切り

伸展GAPに影響を及ぼす因子

・大腿骨遠位端
・脛骨近位端

 

伸展GAPに影響する因子

伸展GAPは膝関節伸展位での関節の隙間です。
つまり上図のように、大腿骨の遠位端の骨切り量と、脛骨近位端の骨切り量が伸展GAPに直接影響を及ぼします。
では実際に骨切りラインを変化させた場合を図で見て見ましょう。
 

伸展GAPに影響する因子2

上図は、左の骨切り量を基準とした際のそれぞれのGAPの違いです。
➢図中央:大腿骨遠位端の骨切りラインを近位にしたもの
近位方向に伸展GAPが広がっているのが分かります。

➢図右:脛骨近位端の骨切りラインを遠位にしたもの
遠位方向に伸展GAPが広がるのが分かると思います。

 

屈曲GAPと骨切り

屈曲GAPに影響を及ぼす因子

・大腿骨後果
・脛骨近位端

 

屈曲GAPに影響する因子

屈曲GAPは膝関節屈曲位での関節の隙間です。
つまり上図のように、大腿骨の後果の骨切り量と、脛骨近位端の骨切り量が屈曲GAPに直接影響を及ぼします。
ではこちらも実際に骨切りラインを変化させた場合を図で見て見ましょう。
 

屈曲GAPに影響する因子2

図は左の骨切り量を基準とした際のGAPの違いです。
➢図中央:大腿骨後果の骨切りラインを腹側にしたもの
腹側方向に屈曲GAPが広がっているのが分かります。

➢図右:脛骨近位端の骨切りラインを遠位にしたもの
遠位方向に屈曲GAPが広がるのが分かると思います。
 

TKAの手技の理解に重要

もうお分かりかと思いますが、脛骨近位端の骨切りは伸展GAPにも屈曲GAPにも影響を及ぼします。
大腿骨の骨切りは遠位端・後果のいずれも、伸展GAP・屈曲GAPのどちらか一方にしか影響しません。
図で見ると当たり前ですが、今後TKAの手技を説明していく上で重要になってきます。

・大腿骨遠位端 → 伸展GAPに影響
・大腿骨後果  → 屈曲GAPに影響

・脛骨近位端  → 伸展GAP・屈曲GAPに影響

図でまとめてみます。
 

大腿骨遠位端の骨切り

大腿骨の遠位端の骨切り量は伸展GAPに影響を与えます。
ただし屈曲GAPには影響しません。

 

大腿骨後果の骨切り

大腿骨の後果の骨切り量は屈曲GAPに影響を与えます。
伸展GAPには影響しません。

 

脛骨近位端の骨切り

脛骨の近位端の骨切り量は伸展GAP・屈曲GAPの両方に影響を与えます。

この骨切りでの違いは今後紹介していく手技を理解するのに重要になってきます。
また、上記で紹介した大腿骨遠位端・脛骨近位端・大腿骨後果を選択的に多く(少なく)骨切りすることは基本的にありません。

※ただし膝の状態や手技によっては選択的に多く(少なく)骨切りする場合があります。

 

軟部組織によるGAPの調整

骨棘の除去が済んだ後であれば軟部組織でもGAPの調整は可能です。
TKAを行う場合の膝関節は拘縮が進んでいる場合が多く、靭帯や関節包も拘縮している事が多いので、剥離や摂理を行い調整していきます。

どの組織を剥離するとどの方向のGAPが拡大するかは、ROM(Range of motion)制限因子と同じと考えて問題ありません。

例えば、後方関節包の拘縮は膝の伸展制限になりますが、後方関節包の大腿骨・脛骨との付着部分を剥離すると伸展GAPが拡大します。

軟部組織で調整する事の多い組織は、

・半膜様筋腱
・内側側副靱帯
・後方関節包
・腸脛靭帯
・後十字靭帯  などです。

軟部組織の剥離は、骨棘を全て除去した後に行います。
大腿骨や脛骨に余分に付着してしまっている部分の剥離という形です。

つまり、Tight(キツい状態)になっている組織を剥離して適切なGAPにするのですが、Loose(緩い状態)になってしまったものをTight戻すのは困難です。
そのため術中の軟部組織剥離によるGAPの調整はその都度GAPを確認しながら行います。

骨も軟部組織も切除したら元には戻りません。
そのため、できれば決まった位置で骨切りをして、想定したGAPがそれぞれ確保できているという状態が理想です。
(軟部組織の処理の不要なTKAはあり得ませんが)

では理想的なGAPとはどのようなものなのでしょうか?
 

伸展GAP = 屈曲GAP が理想?

理想的なGAPとはいろいろな意味がありますが、まず重要なのは伸展GAPと屈曲GAPに差がない事です。
つまり伸展と屈曲のGAPを揃えることが重要になってきます。

例えば伸展GAPが20mmであり屈曲GAPも20mmであればGAP差0mmなので良い状態と言えます。

逆に伸展GAPは17mmだけれども屈曲GAPが20mmであればGAP差が3mmある事になります。
これは良い状態とは言えません。
 

GAP差は無方が良い

意図していないGAPの差の多くは、伸展GAPが屈曲GAPに対して小さい場合です。
手術前の膝関節の伸展制限が強い程、伸展GAPは小さくなりがちです。

ただしこのGAPを揃えるというのが実は非常に難しいのです。

そのためTKAにはいくつかの手技が存在します。
次回はTKAの手術手技を紹介します。

今回はGAPについてやや複雑ですが説明させて頂きました。
TKAの手術手技はこのGAPの概念を把握していないと理解するのは難しいので、まずは今回のGAPについて知って頂ければ幸いです。

 

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