前方脱臼・後方脱臼について
- 2018.02.04
- 解剖学・生理学
その脱臼は前方?後方?
前回は、脱臼率について書きました。数字の持つ意味と無意味さをご理解して頂けたかと思います。今回は、前方脱臼と後方脱臼について説明します。
脱臼の基本的な説明は「脱臼の原因」を読んでみて下さい。
インピンジ肢位を把握する
THAにおける脱臼には、「前方脱臼」と「後方脱臼」があります。
また基本的に、前方脱臼は前方系アプローチの術後、後方脱臼は後方系アプローチの術後で起こります。
THAやBHAの術式は今後詳しく説明していきますので、今回は術式についてはなんとなくご理解して頂ければと思います。
前方脱臼も後方脱臼も理屈は同じです。インピンジメントが発生して起こります。
前方脱臼は 伸展+内転+外旋 で発生し易いです。
後方脱臼は 屈曲+内転+内旋 で発生し易いです。
しかし前方脱臼にはもうひとつ種類があります。それは、 屈曲+内転+外旋 です。これは外側アプローチにて行われる脱臼肢位ですので、少し頭に入れておいて下さい。ちなみに屈曲内転外旋ではインピンジは生じにくいため脱臼もしにくい肢位となっております。
関節包の脆弱部?
さて、カップとステムのインピンジメントで説明させて頂いた通り、この肢位にてカップとステムがインピンジしますので脱臼しやすい肢位、つまり脱臼肢位となっております。しかしインプラントの構造の問題だけではないのが脱臼です。軟部組織の状態に大きく左右されます。
そのひとつが関節包です。関節包のテンションの話は「レントゲンから見る脱臼リスク3」で説明しましたが、今回は関節包の脆弱部の話です。
ちなみに脆弱の読み方はゼイジャクです。キジャクではありません。
関節包における脆弱部とは薄くなっている部分のことです。薄ければ当然厚い組織に比べ柔らかく弱いです。
THAは当然ですがどのアプローチにおいても関節包は切開され、その後縫合されます。その際に切開部(縫合部)の組織がどうしても弱くなってしまいます。具体的にどの部分を切開するかというと、先程の関節包の『脆弱部』を切開するDr.が多いです。
執刀医によって切開部位や切開方法は異なる。主にT字切開とL字切開がある。
では関節包の脆弱部とはどこなのでしょう?図で示します。
赤で示した部分が関節包の脆弱部となります。
前方脱臼では腸骨大腿靭帯と恥骨大腿靭帯の間の部分。
後方脱臼では腸骨大腿靭帯と坐骨大腿靭帯の間の部分。
前方または後方での脱臼においてはこの位置がインナーヘッドの抜け道となる場合が非常に多いです。また、一度脱臼してその初回脱臼から半年以内に同じ部分で再度脱臼をするとインナーヘッドの通り道は完成してしまい、いわゆる『脱臼が癖になる』状態となってしまいます。そのため万が一脱臼が行ってしまった場合は、半年の間は再脱臼は必ず避けて下さい。最低でも半年は組織が弱い状態であると覚えておきましょう。
筋肉切開による脱臼への影響は?
さて、関節包の次に脱臼に影響してくる軟部組織が筋肉です。BHA・THAのどの手術でももちろん筋肉を切開して関節包まで到達します。どの筋肉をどれだけ切ったか、どの部分を傷付けたか、などが術後の脱臼に関わって来ます。
しかし、筋肉に関しては手術が終わって閉創してしまったらどこを切ったのかは正確には分かりません。またどこを余計に傷つけてしまったかも分かりません。
手術後に外観で判断できる術創部は皮膚(皮下脂肪を含む)の切開線でしかありませんので、筋肉の切開線はまったく見えません。
よくセラピストの方で、皮膚上の術創部をみて「◯◯筋を切っているね」とおっしゃる方がいらっしゃいますが、実際には切っている筋肉は見えません。そのため予想の範疇でしかないのです。外観から確実に判断できるのは皮膚とその直下の脂肪の切開線のみです。
執刀医によって切る筋肉は若干異なる場合があります
ただし一般的にどの術式がどの筋のどの部分を切っているか、これを知っている事が大切かと思います。皮膚切開線を見てある程度の予想がつけばセラピストの方は出力低下する筋が予想できます。
まずは5つの術式を覚えましょう。
1.後方アプローチ
2.後側方アプローチ
3.外側アプローチ
4.前側方アプローチ
5.前方アプローチ
これらの5つの術式が基本となります。
そこで次回は各アプローチがどの筋を切っているのかとそれぞれの特徴を一つずつ説明していきたいと思います。
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