TKA-CS型・BCP型とは

  • 2018.06.22
  • TKA
TKA-CS型・BCP型とは

CS型・BCP型とは

前回はTKAにおけるPSタイプを紹介しました。
CRとPSはTKAにおける基本ですのでしっかり把握しておくと良いと思います。
今回はまずTKAにおける2つのタイプをご紹介します。

CS型・BCP(BCr)型です。
BCS型に関しては次の記事で説明します。

TKA-CS型とは?

まずは1つめのCSタイプからです。
CSとはCruciate Substitutingの略で、十字の代理という意味ですね。
つまりインプラントが十字靭帯の代わりを成すという意味です。
CS型はACLを切除しますが、PCLは切除 or 温存の選択が可能です。
つまりCS型は

ACL切除
PCL切除 or 温存(選択可能) です。

ではなぜPCLを切除か温存かの選択が可能なのでしょうか?
それを説明するにはCS型のインプラントの形状を理解する必要があります。

CSタイプの特徴はインサートにあります。CRタイプのインサートと形状を比較すると分かりますが、一見するとCR型と大差がありません。

TKA-CSのインサートの特徴

CR型とCS型のインサートの違いはその深さです。
インサートの前方と後方がCRに比べると隆起しています。この隆起している部分を「リップ」と言います。前方(後方)リップが高いと表現される場合が多いです。
もともとの膝関節は大腿骨が凸、脛骨側が凹の役割を担います。TKAでもそれは同じですがCR型に比べCS型ではリップが高いため凹凸が深くなります。

そのためインプラントでの拘束性が高いということです。
脛骨(大腿骨)の前方(後方)移動がインプラントの拘束性の高さで制御可能になる訳です。

また大腿骨と脛骨の回旋も正常膝に近い状態で再現されます。しかしそれには正常に近い靭帯バランスに整える必要があります。
TKAにおける軟部組織処理は今後記事にする予定ですので、靭帯バランスの詳細はそちらで説明します。

CS型のメリットは同じインプラントと同じ器械で術中にPCLを切除するか温存するか選択できるところです。実際に開いてみてPCLの状態や麻酔下での関節の動き具合を確認してから判断可能というところです。
近年CS型の症例は少しずつ増加していますが、まだまだ症例数は少ないです。

 

TKA- BCP(BCr)型とは?

次に2つめのBCP(BCr)タイプです。

BCPとはBi-Cruciate Preserveの略です。
BCrも同じタイプを示しており、Bi-Cruciateの略ですね。どちらも同じ意味です。
つまり2つの十字靭帯を温存する、という意味です。
そのためBCP(BCr)型は、

ACL温存
PCL温存 です。

TKAを勉強している方はここで少し疑問が生じると思います。
脛骨ベースプレートを設置する際に、脛骨ACL付着部の骨は骨切りにて切除しているのではないのか?という疑問です。
なぜACLもPCLも温存可能なのでしょうか?

これはBCP(BCr)型の脛骨ベースプレートの構造を把握するとその理由をご理解頂けます。
実はBCP(BCr)型の脛骨ベースプレートはCRやPS、CSタイプと異なり中央にスペースがあいています。つまりU字型プレートなのですね。

TKA-BCPのインプラントの特徴

そのため脛骨の中央は骨切りされない(最前方部は除く)

このU字のベースプレートに合わせて当然インサートも形状が他のタイプと異なります。
上図のようにインサートは内側と外側の2つが存在するのです。

また、ベースプレートとインサートと、脛骨水平面の位置関係ですが、下図のようになっています。

TKA-BCPのインプラントと十字靭帯の関係

ACLとPCLの脛骨の付着部には空間ができているのが分かります。
そのためインプラントがACL・PCLの付着部を干渉しないデザインとなっています。

ACLとPCLの2つの十字靭帯を両方とも温存できるというと、一見、BCP(BCr)はとても素晴らしいタイプのように思えます。
もちろんコンセプトは素晴らしく、自身の組織温存という意味では最も良いのですが、実はBCP(BCr)は術後成績があまり良くないケースも少なくありません。
術後に可動域制限が残る症例が多いのです。

これはPSタイプの記事でも説明しましたが、術前の靭帯の状態に大きく影響します。ACL・PCL共に良い状態ならば適しているのかもしれません。
また、BCP(BCr)型は脛骨の骨切り量(切除する骨厚)が大きくなりやすい傾向にあります。
通常、脛骨の骨切り量は10mm程度です。それに対しBCP(BCr)型での脛骨の骨切り量は15mm程度になる場合もあります。
骨切り量は大き過ぎても小さ過ぎでも軟部組織のバランスを調整するのが難しくなります。機種にもよるため一概には言えませんが、脛骨に関しては概ね10mm程度が良い場合が多いです。
もちろん関節GAP(関節の窮屈さの程度)によっては12mm骨切りする場合が最適な場合もありますし、8mm程度が最適な場合もあります。
※GAPの概念については今後の記事にて説明予定

また、BCP(BCr)型はそのインプラントメーカーの提供するキャダバートレーニングを受けた医師しか行なえません。
キャダバートレーニングとは、献体(御遺体)を用いた手術練習です。日本では行えないため海外にて行います。術野も狭いため手術の難易度はやや高いものとなっています。

TKAのBCP型はCS型に比べてさらに症例数が少ないです。

 

症例数はまだまだ足りない

CS型もBCP(BCr)型も症例数は、CR型やPS型に比べるとまだまだ十分とは言えません。そのため十分な長期臨床データが確保されていない状況です。
TKAにおいてはCR型とPS型がほとんどを占めています。
今後CS型やBCP型症例数が増えてくる可能性は十分にありますが、次の記事で紹介しているBCS型のTKAの方が使用している医師が多くなってきている印象です。

今回はここまでです。
TKAにおけるCRとPSに加え、CSとBCP(BCr)もご理解頂けたかと思います。
理学療法士等のセラピストの方々はこのようなタイプのTKAがあるということは知っておくと良いと思います。
脛骨(大腿骨)の動きはインプラントでの制御なのか、それとも十字靭帯での制御なのか、これを理解した上で関節可動域訓練を行うことは非常に重要かと思います。

次回はTKAにおけるBCSタイプをご紹介します。

 

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