TKA-BCS型とは

  • 2018.11.24
  • TKA
TKA-BCS型とは

TKA-BCS型とは

前回はTKAにおけるCSタイプとBCP(BCr)タイプを紹介しました。
今回はBCSタイプを紹介します。

TKA-BCS型とは?

BCSとはBi-Cruciate Stabilizedの略です。
PS型の「S」と同じ意味ですね。
BCS型は、

ACL切除
PCL切除 です。

膝の十字靭帯を両方とも切除します。
これでは前回説明したPSタイプと同じではないかと思った方もいらっしゃると思います。
たしかに2つの十字靭帯を両方とも切除するという意味ではPS型と同じです。
ではBCSとPSでは何が異なるのでしょうか?
まずはTKA-PS型を簡単に振り返ります。

まずはPS型の復習

PS型も、今回紹介するBCS型と同じくACL・PCLを両方とも切除しますね。
そしてインサートのPostと大腿骨コンポーネントのCamがあり、これらが物理的に大腿骨と脛骨の動きを誘導しています。

TKA-PS型のインプラントの動き方

そのため脛骨に対しての大腿骨の後方制動をインプラント同士で物理的に制動するので、それがPCLの役割を果たしている、という構造でしたね。
詳しくは「TKA-PS型とは」を確認してみて下さい。
では今回のBCS型はPS型と何が違うのでしょうか?

構造的にACLの役割を担う?

BCS型の最大の特徴は、Camが2つあることです。
Camが2つとはどういうことでしょうか?
1つ目のCamはPS型と同じく、大腿骨コンポーネントの後方、つまりインサートPostの後方に位置します。
2つ目のCamは大腿骨コンポーネントの前方、つまりインサートPostの前方に位置します。

TKA−BCS型のインプラント構造

ややわかりにくいが、矢印部分の灰色で示したものがCamである

後方のCamはPS型のものと同じと考えて頂いて構いません。
Posterior Camと呼ばれることもありますが、Posterior Stabilizerとも言います。意味はそのまま「後方を安定させるもの」ですね。
前方のCamについては、膝関節屈曲時の機能的な動きの邪魔をせず、かつ伸展時の脛骨の前方への動きを制動します。
Anterior Camと呼ばれます。
後方のPost-Cam機構はイメージし易いと思いますが、前方のPost-Cam機構はイメージしにくいですね。

伸展時と屈曲時のイメージを見てみましょう。

TKA−BCS型の動き方

緑で着色した部分がAnterior Cam、青色で着色したのがPosterior Camです。
また。紫色がインサートのPostになります。
それぞれの位置関係を確認すると、屈曲0°の際にはAnterior CamがPostと接触して脛骨の前方への動きを制動できるのが分かると思います。
また、屈曲110°の際にはPosterior CamとPostが接触してRoll Backを誘導しているのが分かります。これは「TKA-PS型とは」にて詳しく説明していますので併せてご確認してみてください。

このようにBCS型においては、Anterior CamとPostによって前方の安定性を獲得させながらPosterior Camと組み合わせる事でACLとPCLの機能の両方を代用しています。

BCS型のインプラントも他のタイプのインプラントも一見似ていて見分けが難しいですが、構造や機能を理解してから見ると異なる事に気が付きます。


インサートはPS型と似ている

BCS型インプラントの見た目としての特徴は、矢状面から見た際の大腿骨コンポーネントかと思います。Postが通過するためのポケットがあるため、他のタイプに比べ少し大きく見えます。
このポケットがあるかないかで概ね、BCS型か否か判断ができます。

PSとBCSの構造的違い(矢状面)

機能的な違いのためにこのような形状になっています。
TKAインプラント自体、各メーカーによってデザインは異なりますので一概には言えませんが、同じタイプで大きく異なることはありません。
ちなみにペグとは、大腿骨とコンポーネントの固定性を良くするためのもので、内外側にそれぞれ1本ずつ計2本付いていることが多いです。内外含めて4本付いている機種もあります。
セメントレスタイプ等ではスクリューを打つタイプの機種も多いです。

また、脛骨ベースプレートの形状は基本的に全て同じと考えて頂いて構いません。
※ただしBCr型は大きく異なる。

ACLの代わりができる唯一のタイプ!?

ここまで紹介してきたTKAのタイプにおいて、ACLの機能をインプラントの構造にて有しているものはありませんでした。
TKAのシェア率の9割以上を占めているCR型・PS型においてはACLは切除されたまま、つまりACL不全の膝関節である訳です。
そのため皆さんの担当しているTKA患者さんのほとんどはACL不全の膝関節です。
前回の記事で紹介したTKA-BCP型では唯一ACLを温存するが、現在の症例数は少ない。
理由は「TKA-CS型・BCP型とは」を参照。

そのため屈曲初期に前方滑りを伴う、いわゆるParadoxical Motionが起こってしまっていると言われています。Paradoxical MotionがTKAにおける成績不良の原因のひとつとも言われている。

現在、インプラントの構造でACLの代わりを行えるインプラントはBCS型のみです。
そこに大きなメリットを感じて、もしPCLを切除するならPSではなく全てBCSを選ぶ、というような医師もいます(PCLを切除せず残す場合はCRを選択する)。
常々言っているように、機種選択の基準に正解はなく、医師によって様々です。

TKAにおける機種決定の基準もそのうち記事にて説明してみようと考えています。

 

回旋の誘導も可能!?

BCS型がACL・PCLの代わりをすると言っても脛骨(大腿骨)の回旋まではPost-Camでは再現しきれません。
Post-Cam機構では、脛骨(大腿骨)の矢状面上の動きは誘導できても水平面上の動きである回旋の動きは十分に誘導できないのです。
しかし実は最近のTKAは水平面上の動きである脛骨(大腿骨)の回旋も誘導できるインプラントが多くなっています。

次回はTKAにおける回旋誘導がどのように行われているのかを解説します。

 

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