Medial Pivot Motionとは

  • 2019.06.02
  • TKA
Medial Pivot Motionとは

Medial Pivot Motionとは

前回はTKAにおけるBCSタイプを紹介しました。
インプラントの構造でACLの代わりを担える唯一の機種でしたね。
ここまでの記事でTKAにおける膝関節の屈曲・伸展の動きばかり紹介してきました。今回はTKAにおける回旋運動がどのようにコントロールされているのかをご紹介します。

膝は回旋している

膝関節の関節運動といえば伸展と屈曲がまず思い浮かびますが、実は回旋も非常に重要です。

ヒトの正常の膝関節は伸展位にて脛骨外旋、屈曲位にて脛骨内旋が起こります。
ここでは詳しくは解説しませんが、これは骨の構造や半月板や靭帯などの軟部組織の影響によるものです。そのためヒトの膝はまっすぐに伸び、そして深く曲がります。
それ自体は有名な話なのでこの記事を読んでくれている皆様には解説不要かと思います。

まずは用語を理解しましょう。
Medial Pivot Motion(以下MPM)とScrew Home Movement(以下SHM)という言葉を聞いたことはありますか?
この用語はもう十分知っているという方は飛ばしてください。

MPM:膝関節屈曲時に起こる(大腿骨に対する)脛骨の内旋方向への動きの事
SHM:膝関節伸展時に起こる(大腿骨に対する)脛骨の外旋方向への動きの事

です。
つまり平たく言えばそれぞれ、膝屈曲で脛骨は内旋し、膝伸展で脛骨が外旋する動きのことです。
これらの動きをTKAにおいても再現している機種も多くあるのです。
ちなみに、伸展時のSHMは把握しているけれど屈曲時のMPMは把握していないとうい理学療法士の方が多い印象です。

今回はTKAにおけるMPMについて説明していきます。

そのためにはまずTKAの歴史を簡単に振り返りましょう。
TKAの歴史を振り返ると初期は全て左右対称(内外対称)の1軸性でした。

昔は多くのTKAの大腿骨コンポーネントにおける内側果・外側果は左右対称(内外対称)の凸で作られており、それに合わせてインサートも左右対称(内外対称)の凹であることが基本でした。

では近年のTKAインプラントはどうなのでしょうか?
実は大腿骨コンポーネントの凸も、インサートの凹も左右(ここでは内側外側の意味)でその構造が異なっているのが主流になってきています。

つまりヒトの骨形状に近づけた形をしているのです。

骨形状に合わせたインプラント

そもそもヒトの大腿骨の内側顆と外側顆、脛骨の内側面と外側面はそれぞれ大目に見ても左右対称とはいえません。
大腿骨では内側顆の方が外側顆に比べ大きくできていますし、脛骨では内側面の方が凹であり外側面は凸の形状になっています。

形状の違いは本来は3Dで捉えなければなりませんが、ここでは前額面と矢状面での違いを理解しましょう。

脛骨大腿関節の骨形状

上の図は大腿骨と脛骨の内外側での形状の比較をしたものです。
青い線が大腿骨側の形状を、オレンジの線が脛骨側の形状を表しています。

注目してほしいのは矢状面上での脛骨側のオレンジのラインです。内側と外側で凹凸が逆になっているのが分かるかと思います。
そのため脛骨の関節面を構成するインプラントであるインサートも実際の骨形状に近い形で作られているものが多いです。

あるインプラントのインサート形状を内側と外側で比較したものがこちらです。

インサートの形状比較(内外側)

図は比較しやすくするために左右を反転させている

図の左が外側、右が内側です。
インサートの外側の方がフラットに近く内側の方はより凹状にラウンドしているのが分かります。

ここで気がつく人もいらっしゃると思いますが、TKAインプラントにおいてこの形状は、内側・外側で運動の拘束性が異なってくることを意味します。

インサートがフラットに近い外側に比べ、ラウンドしている場合拘束性が高くなるのはご理解いただけるでしょうか?
図で解説してみます。

大腿骨コンポーネントの拘束性(内外側比較)

図は見やすくするために左右を反転させている

上図のように、フラットに近い外側面は大腿骨は転がりと滑りの運動がより可能なのに比べ、ラウンドしている内側は転がりや滑りは生じにくく、回転の運動が主になるのがイメージできると思います。

このように、内側の拘束性が高く、外側の拘束性が低い状態ではどのような動きが起こるのでしょうか?
ここまできてようやく表題のMedial Pivot Motionがでてきます。

Medial Pivot Motionとは

Medial Pivot Motionは読みはメディアル ピボッド モーションです。Medialは内側という意味で、Pivotとは旋回という意味ですね。Motionは動きという意味ですので、直訳すると内側の旋回の動きとなる訳です。

つまり、Medial Pivot Motion(MPM)とは膝関節における(大腿骨に対する)脛骨の回旋の事です。
また、Pivotには「…を軸にして回旋する」という意味があります。
つまりMPMとは内側を軸とした回旋運動という意味になります。

ではなぜ内側が軸になるのでしょうか?

内側軸は、冒頭から説明していた内側と外側の形状の違いが生み出します。
内側の拘束性が高く、外側の拘束性が低かったのはもうご理解していると思います。

この状態で膝が回旋しようとするとどのような事が起こるのでしょうか?
図で説明します。

MPMの機構

内側に対し外側の動きの自由度が高いため、拘束性の高い内側を起点とし、外側が滑り運動を起こします。それにより内側を基準とした膝関節の回旋運動が起こります。
これがMPMです。

また、インサート形状のみでなく、大腿骨コンポーネント側も左右非対称となっており、MPMを誘発しやすい形状となっています。

このように、インプラントの形状自体でTKAにおける関節面に回旋という動きを出現させています。
現在、MPMが起こるTKAインプラントは多くあります。現在出回っているTKA-BCS型のインプラントはほぼ全てアナトミカルなデザインとなっており、MPM機構を持っています。

※アナトミカルデザインとは解剖学的なデザインという意味

TKAのインプラントは今後はどのように進化していくのでしょうか?

構造だけの影響なのか?

ここまで膝の回旋について、インプラントの形状で誘発させていると説明してきました。
では、はたしてインプラントを設置さえすれば想定している回旋は起こるのでしょうか?

実はそういう訳ではありません。

インプラントの形状だけでうまくいく訳ではないんですね。
必要なのは、適切な靭帯バランスと適切な関節のきつさ(緩さ)が必要になってきます。インプラントの形状よりもこれらの身体的要素の方が術後のROMへの影響が大きいと考えている医師は多いです。

靭帯バランスの取り方や関節のきつさ(緩さ)についての概念や処理方法はTKAを学ぶにおいて非常に大切になってきます。
これについては今後記事にしていく予定です。

 

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