前方アプローチ(DAA)

前方アプローチ(DAA)

前方アプローチ

前回は前側方アプローチ(AL)を紹介しました。今回は「前方アプローチ」を紹介しようと思います。

前方アプローチは医療関係者なら聞いたことがある術式だと思います。しかし名前は良く聞くけれどあまり良く知らないという方も多いのではないでしょうか?

まずは概念から説明です。

 

前方アプローチとは

前方アプローチは英語でDirect Anterior Approachです。略字ではDAAと記載されます。

DAAの手術方法は簡単ではなく、選択している医師はそんなに多くはありません。しかし近年、全国的にDAAを選択する医師が少しずつ増加しています。

 

手術肢位は背臥位(仰臥位)で行います。

 

DAAは「筋間切開」で切開部位は、

縫工筋と大腿筋膜張筋の間 です。

AL(前側方アプローチ)と同じく筋間切開となります。

 

DAAの脱臼肢位は 伸展+内転+外旋 です。

これもまたALと同じく前方系のアプローチですのでこの肢位ですね。

前方アプローチ(DAA)

DAAは今でこそ有名なアプローチ方法ですがフランスで発生し、ある整形外科医が日本に持ち込んだ当時は千葉県の1施設でしか行われていなかったアプローチです。それが今では日本全国に広がっています。そう考えると良いアプローチはしっかり広がっていくんだと感じます。

基本情報は以上です。詳細をみていきましょう。

 

DAAの特異性は?

DAAは背臥位で行うため、同日に両側股関節の手術が可能となります。

通常、THA等の股関節の手術は側臥位で行われる事が多いため、両側の手術を受ける患者さんは2回に分けて手術を行わなければなりません。しかしDAAではその日のうちに両側の手術が可能で、患者様の負担も手術1回のみで済むというメリットもあります。

ただし実際はDAAで両側をサクッと終わらせられる医師は多くはありません。

 

DAAのメリットはまだあります。

股関節の外転筋も外旋筋も切開することがないため、術後半年の予後が他の手術に比べて良好です。入院期間も短くて済み、翌日には全荷重にて歩行開始となる場合がほとんどです。

最近は術式に関わらず翌日に前荷重開始としている病院も多い

 

DAAのデメリットは?

もしDAAのデメリットを挙げるとしたらそれは手術自体の難易度です。DAAはPA(後方アプローチ)に比べ難易度は結構高いです。PAやPLAが研修医向けであり、DAAはトレーニングを積んだベテラン医師向けです。

その難易度のために医師によっては手術時間が長くなってしまう場合があります。当然ですが手術時間は長引く程、出血量や麻酔量は増えていき患者さんへの負担は大きくなります。また、体力のない患者様ではそもそも長時間の手術に耐えられません。

そのためDAAはある程度トレーニングを積んだ医師が行う場合が多い術式なのです。

なぜ難易度が高いかと言うと、まず前方系のアプローチですので臼蓋側の処理は行いやすくても大腿骨側の処理が難しいことが挙げられます。また術中の背臥位における股関節伸展での術中脱臼肢位は術野が狭く、ステム設置が難しく設置不良も起こりやすいです。

さらに背臥位ですので骨盤が回旋(前額面上での回旋)しやすいため、カップの設置位置の同定が難しく、CUP外転角が大きくなってしまう場合が多いです。

DAAとCUP外転角

イラストだと分かりやすいが実際のオペ中に骨盤の回旋を見極めるのはかなり難しい。

上のイラストだと骨盤の回旋(前額面上)を少し強調しましたので分かりやすいですが、実際のオペ中に5°回旋していてもほとんど分かりません。滅菌布も全身にかかってますしね。

 

また術中に無理やり股関節の伸展を強くして術野を確保しようとすると大腿骨骨折が起こりやすくなります。実際DAAにおいて大腿骨骨折の発生率はPA(後方アプローチ)PLA(後側方アプローチ)に比べ遥かに高いです。

 

このようにDAAは手術自体が後方系アプローチに比べ難しいです。ましてRevisionでのDAAとなると難易度は跳ね上がります。RevisionのオペもDAAでサクサク終わらせられる医師は非常に少ないですね。

しかし手術がうまくいった後の患者さんの予後は良好で、特に術後半年間での満足度は後方系と比べかなり高いものとなっています。

 

 

前方アプローチ(DAA)の紹介は以上です。

理解が深まればDAAを1日何例も行っている整形外科医のスキルの高さが分かってきますね。

 

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