カップの基礎知識3 カップ設置
- 2018.03.16
- THA・BHA
カップの基礎知識3
カップ設置
前回はスクリュー設置について説明しました。今回はTHAカップ自体の設置に関して説明します。
「レントゲンから見る脱臼リスク1」と併せて読むと理解が深まります。
CUP外転角
以前「レントゲンから見る脱臼リスク1」で説明したCUP外転角は皆さん把握していますでしょうか?以前に脱臼の指標として紹介しましたね。そのCUP外転角と同じです。
CUP外転角をおさらいしましょう。CUP外転角とは、前額面における両側の涙痕を結んだ直線を基準線0°とした線に対するカップの傾斜角度のことです。
45度以下が基本となっており、それ以上の角度では脱臼の危険性があります。
詳細は上記リンク参照
CUP外転角の確認の仕方は以前説明した通りですが、一応おさらいしておきましょう。
このように確認できます。
レントゲンをパッと見た感じですぐに把握できるのが良いですね。
CUP前方開角とは?
CUP外転角の他にもCUP前方開角というものもあります。別名でCUP前開き角とも言います。
カップ設置において前方開角も非常に重要であり、この角度をつけて設置しなくては股関節のROMは確保できません。
ではまずはヒトの通常の臼蓋を確認してみましょう。ヒトの臼蓋はもともとやや前方を向いています。
四足動物からしたら股関節伸展0°は過伸展位である
ヒトはもともと四足歩行の動物であったため、結果として正常立位では臼蓋は前方を向きます。ヒト本来の四つ這いでの位置(屈曲外転外旋)であれば非常に安定する構造となっております。
やや前方を向いている角度に合わせたものがCUP前方開角です。水平面からの角度になります。
水平面上において両側ASISを結んだ線に対して垂直に引いた線が基準線になります。基準線に対してカップ受け皿側を前方に向けた角度が前方開角になります。
前方開角は15°〜25°以内に設置するのが基本になります。
前方開角の確認方法は?
では前方開角はどのように確認できるのでしょうか?
実はCUP外転角と同様にレントゲンで確認できます。CUP外転角と異なり少し見にくいです。
THAカップのレントゲンを良く見ると、楕円が確認できます。下図に示した楕円の大きさで前方開角のおおよそが確認できます。
Cement CUPの場合も楕円は見える
この楕円が大きい程前方開角は大きく、この楕円が細いほど前方開角は小さくなっています。この楕円が◯mmだと前方開角◯°といった明確な指標はありません。
おおよそ上図の楕円の見え方であれば前方開角は20°程といった感じです。この楕円は良く見ないと分かりにくいですが、楕円がないレントゲンと比較すると分かりやすいです。
右の写真と比べると左の正常の前方開角による楕円は確認しやすいかと思います。
では前方開角はどのような役割があるのでしょうか?
前方開角の大きさによる影響は?
前方開角が大きかったり小さかったりするとどのようなリスクがあるのでしょうか?
それはCUP外転角と同様に脱臼のリスクです。屈曲・伸展それぞれでのインピンジのリスクが向上します。
脱臼とインピンジメントの関係は「脱臼の原因」を参照下さい。
本来は大腿骨側はステムに置換した画像の方が適しているが、位置関係を想像しやすくするため、あえて大腿骨の画像を使用している。
前方開角が大きいと伸展でのインピンジのリスクが向上します。
カップ後方がステムのネック後方に被ってくるため、伸展時のインピンジが起こりやすくなります。この状態で内転と外旋を加えると容易にインピンジしてしまいます。
前方開角が小さいと屈曲でのインピンジのリスクが向上します。
カップ前方がステムのネック前方に被ってくるため、屈曲時のインピンジが起こりやすくなります。この状態で内転・内旋を加えると容易にインピンジします。
前方開角は非常に大切なことが理解できますね。
このようにTHAにおけるCUPの設置は3Dで位置関係を把握し、狭い術野の中で的確な位置に設置する必要があります。
CUP外転角・CUP前方開角を的確な角度で設置するのがどれほど難しいかが少しご理解頂けたかと思います。
BHAとTHAの手術難易度の違いはこのカップ設置と言っても過言ではありません。
もちろんステムの設置も簡単ではないですが。
ではCUP外転角とCUP前方開角が最適な場合のカップの位置関係を水平面上から確認してみましょう。
このようになります。
3Dのものを2Dで表現するのは難しいですが、少し想像して頂ければと思います。
理学療法士等のセラピストの方々は、担当されているTHAの患者さんのレントゲンにてCUP外転角とCUP前方開角を確認し、どの位置でインピンジしやすいのか把握するとリハビリ業務のリスク管理になります。レントゲンでカップの楕円が細い患者さんの屈曲角度は十分注意して下さいね。
また、ROMエクササイズの際もどの方向ならインピンジしないで関節包や周囲の筋を伸張できるのかも把握できると思います。ぜひレントゲンを確認して見て下さい。
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