ステムの基礎知識5 (Cemented Stemの種類)
- 2018.03.05
- THA・BHA
ステムの基礎知識 5
Cemented Stemの種類
前回はDorrの分類を説明しました。
ステムの種類を紹介していく上で重要な概念なので把握しておいて下さい。今回のセメントステムの紹介にはDorrの分類はあまり出てきませんが、セメントレスステムの紹介の時は把握しておかないと十分にはご理解できません。
Cemented Stemの種類
まずはセメントステムの種類について説明していきます。
セメントステムは
・Composite Beam(コンポジットビーム)
・Taper Slip(テーパースリップ)
の2種類です。図に示します。
Composite Beam は表面がポーラス加工(表面粗度は低い) Taper Slipはポリッシュ加工
形状が若干異なるのが分かります。この形状による違いは後述します。
この2種類がセメントステムのベーシックコンセプトです。ここから派生していきますが、基本的にこの2種類をご理解頂ければ大丈夫です。
また、セメントステムはステムによるコンセプトの違いは大きくなく、基本的には髄腔をセメントで満たし、そこにステムを挿入します。
骨セメントが固まる前にステムを適正位置に設置し固まるのを待つ
髄腔の深部にセメントプラグを設置しセメントが大腿骨の深部に落ちていくのを防ぎます。そこにセメントガンにてセメントを注入し、ステムを挿入します。骨セメントは粉末であり、そこに水を混ぜると発熱しやがて凝固します。液体から個体になっていく過程の適度な粘度の際に注入します。
セメントは10分程度で固まるため、インプラントの設置に時間がかかってしまうと取り返しのつかない事になるため焦らず、確実にインプラントを設置します。
また、セメントステムは髄腔をインプラントが占める割合によっても種類が分かれています。
インプラントが髄腔を多く占め、セメント使用が少ないタイプを「Canal-Filling Stem」、インプラントが小さく、セメント使用が多いタイプを「Under-sized Stem」といいます。
Canal-Filing:キャナルフィリング Under-Sized:アンダーサイズ
近年ではCanal-Filing タイプのステムが選択される事が多い傾向です。
荷重伝達の違い
セメントステムの2大コンセプトはComposite BeamとTaper Slipと前述しました。ではこの2種類のステムの違いは何なのでしょうか?
それは荷重伝達です。
基本的にステムは硬い皮質骨により固定されます。
Composite BeamとTaper Slipで皮質のどこに圧力がかかり、荷重伝達していくかの違いを図に示したのがこちらです。
Composite Beamは主に近位〜中間位の内側皮質骨に荷重がかかります。
そのため近位〜中間位の内側皮質骨が薄いDorrの分類TypeCには適さず、TypeAの方が適します。
Taper Slipは主に中間位〜遠位の両側の皮質骨に荷重がかかります。そのためDorrの分類TypeCでも対応可能です。
ただしセメントステムは実際、髄腔形状があまりステム選択の基準に影響されません。どんな髄腔形状にも基本的に対応可能なのがセメントステムの良いところです。
また骨質の悪い高齢者にもセメントステムは補強材となり術後の骨折のリスクも低いです。
セメント使用は研修医は嫌がる?
セメントステムは髄腔形状にあまり左右されず、基本的にどんな骨質の患者さんにも選択可能です。しかし、研修医の方々はセメントステムを使用するのを嫌がる方がいるのも事実です。
それは、セメント使用による血圧低下が懸念されるからです。セメント使用による血圧の急速な低下は年間少なからず起こっており、急変しそのまま亡くなってしまう症例も少数ですが報告されています。
そのため少なくとも研修中はセメント使用を避けるといった傾向があるようです。
しかし年間のTHA・BHAの総症例数からみたらほんの少数症例です。緊急時に対応できる麻酔医と、患者さんの健康状態を術前に十分確認することで対策できると考える医師が多いです。
さてセメントステムの説明は以上です。
次からはセメントレスステムの説明をしていきます。
セメントレスステムの方が細かく分かれていますので、何部構成かで説明していきます。
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