THA-CUPテンプレート1

THA-CUPテンプレート1

THA-CUPテンプレート1

前回はDDHについて説明しました。

THAはBHAと違い、臼蓋側にCUPを設置します。そのため臼蓋形成不全による臼蓋側の骨量不足や、高位脱臼による脚長差はCUP設置位置をより難しくする要因です。
今回は2部構成の1部目、THA-CUPのテンプレートに必要な要素を説明します。

CUP設置において必要な要素は?

THAの適応は変形している股関節の場合が主ですので、変形の強弱で手術難易度は変化します。
まずはTHA-CUPの設置における必要な要素を理解しましょう。

・CUPの大きさ
・CUP外転角
・Host Bone接触率
・CUP-CE角
・Offset
・脚長差

これらが最低限考慮しなければいけない要素です。
2Dテンプレートでは限界がありますが、把握できることもあります。今回は上記をひとつずつ説明していきます。

実際の2DテンプレートTHA-CUP
実際の2Dテンプレート。
実は様々な事を考慮して計画する必要がある。

CUPの大きさはどうするか

THA-CUPの大きさは基本的には健側骨頭直径の+5〜6mmのサイズを選択します。
ただし臼蓋形成不全が強い場合はなるべく大きなCUPの使用が推奨されています。ただしそう簡単に大きいサイズを選択できない場合もあるのです。

それはこれから説明するCUP外転角・Host Bone接触率・CUP-CE角の3つのそれぞれの条件を満たさなくてはいけないからです。

それではCUP外転角から説明します。

CUP外転角とは

CUP外転角は過去の記事にも何度か出てきましたので、過去記事の「レントゲンから見る脱臼リスク1」も参照して頂くと理解が深まります。

THA-CUPのCUP外転角

CUP外転角は40°〜45°に設置します。この角度が大きすぎると脱臼のリスクが向上してしまいます。CUP外転角を適正角度に設置するのは非常に重要です。

しかし様々な理由でこの角度を確保しにくい場合もあります。これは後述します。

Host Bone接触率とは

Host Bone接触率とは、自家骨とCUPの接触している面積の割合です。CUPの表面積に対しどの程度臼蓋側の骨が接触しているかを表します。
2Dテンプレートの場合は前額面上のみでの判断ですので、正確なHost Bone接触率は出せませんが、レントゲン上での接触率を見て確認します。

Host Bone接触率とは

Host Bone接触率は70%以上なくては固定力が不足すると言われています。

上図からも分かるように、CUP外転角が大きいとHost Bone接触率は高くなります。臼蓋形成不全が強い場合はCUP外転角を適正の40°程にするとHost Bone接触率が確保できない場合が出てきます。

CUP外転角とHost Bone接触率の関係

臼蓋形成不全が強い場合、CUP外転角を適正な角度の40°程度で設置するとHost Bone接触率は下がります。逆も同様に、Host Bone接触率を上げようとCUPを起こすとCUP外転角は大きくなってしまいます

Host Bone接触率とCUP外転角の関係

Host Bone接触率が低いとCUPの固定性に問題が発生し、CUP外転角が大きいと脱臼のリスクが向上します。

ではどちらかを優先して、どちらかを捨てなければならないのでしょうか?

臼蓋形成不全においてもHost Bone接触率とCUP外転角を共に適正な位置に設置する方法はあります。
それはCUPを臼蓋の内板ギリギリまで内側に設置する方法です。

臼蓋の内板とは

臼蓋の内板とは、腸骨と腹腔の境の部分です。この境の皮質を貫いてしまうと内臓を損傷する恐れがあるため、基本的には少し余裕を持たせてリーミングします。

臼蓋の内板とは?

レントゲン上では上図の矢印の部分の白矢印の部分です。レントゲンは2Dですので、写り方によっては臼蓋の内板の位置がもう少し内側にある場合もあります。そのため最終的には術中のリーミングの際に視覚とリーマーの感覚で確認しながら慎重にリーミングしていきます。

内板ギリギリの内側に設置するとCUP外転角を適正角度のままHost Bone接触率を確保する事ができます。

内板ギリギリまで設置した場合のHost Bone接触率の違い

もちろん腸骨を貫いてしまうと大変ですので、あまりギリギリまでは攻めません。
内板ギリギリまでリーミングするのは結構怖いです。なるべくなら余裕を持ちたいですね。

さてまだ確認しなくてはいけないものがあります。それはCUP-CE角です。

CUP-CE角とは

CUP-CE角は前回の記事「DDHとは?」で説明した臼蓋形成不全の目安となるCE角と似ていますが少し異なります。

CUP-CE角THA-CUPの中心から伸ばした垂線と、THA-CUPの中心から臼蓋外縁に伸ばした線の成す角度の事です。CE角との違いは骨頭中心かCUP中心かの違いですね。

CUP-CE角とは

CUP-CE角は少なくとも10°以上なくてはCUPの固定性が確保できません。

概念としてはHost Bone接触率と似ています。

ただCUP-CE角はCUP外転角の影響を受けません。CUPを内側へ設置する程大きくなります。CUP中心が内側にズレるので当然ですね。

CUP-CE角とCUP位置の関係

CUP外転角・Host Bone接触率・CUP-CE角、まずはこれら3つをクリアし、なるべく大きいサイズのCUPを選択する必要があります。

THA-CUPの設置例。条件を満たしているか?

上のレントゲンでのテンプレートは3つとも適正ですね。ただしこれだけではないのがTHA-CUPの設置の難しいところです。

まだOffsetと脚長差があります。

Offsetと脚長差を考慮する

CUP外転角・Host Bone接触率・CUP-CE角の3つを適正範囲内にてCUPが設置できれば、固定力や脱臼のリスクは回避できます。
ただし、ここからさらにOffsetと脚長差を考慮する必要があります。

Offsetに関しては「レントゲンから見る脱臼リスク3」で、脚長差に関しては「ステムの基礎知識3」でも解説していますのでご参照下さい。

THAにおけるOffsetとは、大腿骨の内外側への偏位量のことで、Acetabular OffsetFemoral Offsetの2種類があります。

THAにおける2つのOffset

THA-CUPとステム設置後のOffsetが健側と比較し左右差のないように設置しなくてはいけません。
これには当然CUPの位置だけでなくステムの位置も影響してきます。

脚長差はその名の通り、左右の脚の長さの差の事です。

THA・BHAにおける脚長差

脚長差もOffset同様、術後に健側との左右差がないように各インプラントを設置しなくてはいけません。
これも当然ステムの設置に影響を受けます。

CUP外転角・Host Bone接触率・CUP-CE角の3つを適正範囲内にてCUPが設置できても、いざステムを設置するとOffsetも脚長も左右差が出ていては意味がありません。

そのため、CUP位置を考慮しながら、さらにステムと併せて考えなくてはTHAの術前計画はうまくいかないという訳です。

 

長くなってしまいました。今回はここまでです。
THA-CUPテンプレートは次回に続きます。

 

 

 

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