BHAの適応 2

BHAの適応 2

狭義の大腿骨頸部骨折について

前回は広義の大腿骨頸部骨折について説明しました。今回は狭義の大腿骨頸部骨折についてです。

大腿骨頸部骨折(狭義)とは?

ずばりBHAの適応は、
「大腿骨頸部骨折」です。大腿骨の解剖頸で折れた骨折のことですね。

大腿骨の頸部には「外科頸」と「解剖頸」というのがあります。BHAの適応 1で説明しましたね。
2種類あるのですが、ほとんどの場合において大腿骨頸部というと「解剖頸」を指している事が非常に多いです。なので狭義の大腿骨頸部骨折とは大腿骨の解剖頸で折れている骨折の事です。

なぜ大腿骨頸部骨折を起こすと大腿骨頭を置換、つまりBHAを行わなくてはならないのでしょうか?
答えは簡単です。
放っておくと骨頭壊死が起こってしまうからです。

ではなぜ頸部骨折を起こすと骨頭が壊死するのでしょうか?
それを知るにはまず股関節周囲の解剖を理解していなくてはなりません。

BHAの適応である「大腿骨頸部骨折」について詳しく書いていきます。

 

なぜ頸部骨折は骨頭が壊死するの?

まず、組織が壊死するとはどういうことなのかを簡単に説明します。
身体の組織は常に栄養されており、そのおかげで組織状態を維持しています。
その栄養を運んでいるのが血管であり動脈です。

動脈は基本的に内膜・中膜・外膜の三重構造(正確には内弾性板と外弾性板が中膜を挟んでおり5層構造)になっており、栄養素が外に漏れ出ない壁の作りとなっています。
ただし通常の動脈よりも遥かに細い毛細血管は内膜のみの一重構造です。内膜のみで血管壁が構成されているため栄養素の出し入れが可能です。
つまり正確に言うと、組織に栄養しているのは動脈ではなく動脈の先にある毛細血管になる訳です。
動脈は栄養を運ぶパイプのようなものですね。

もしその動脈が破損したら栄養素を運ぶパイプは連続性をなくし、栄養を運ぶことができなくなってしまいます。
当然、パイプが破損すればその先にある毛細血管まで血液が進む事はありません。
つまり栄養素も運ばれません。
もうなんとなく分かってきたと思います。

つまり頸部骨折を起こすと、骨頭に栄養を運んでいる血管も一緒に損傷してしまうのです。

 

骨頭を栄養する血管ってどこにあるの?

それでは骨頭に栄養を運んでいるパイプとなる動脈とはどの血管なのでしょうか?
前回説明した、「内側大腿回旋動脈」 と 「外側大腿回旋動脈」 です。

この2本の血管が大腿骨頸部の周りを囲んでいます。
そしてこの回旋動脈から伸びた毛細血管が骨頭を包み込み、さらには骨頭の内部まで伸びていて骨頭を栄養しているのです。

関節包内の回旋動脈

関節包の内側で折れた場合は「関節包内骨折」、関節包の外側で折れた場合は「関節包外骨折」

関節包の内側で折れる頸部骨折(狭義)ではこの2本の回旋動脈も骨折に伴って破損することが非常に多いです。
そのため骨頭に栄養を運べず、放っておくと骨頭が壊死してしまうのです。
骨頭が壊死してしまっては正常な関節機能は完全に失われます。
そこで骨頭が壊死してしまう前に人工の骨頭に置換しようというのがBHAの適応概念です。

ちなみに、大腿骨頭への動脈血管は大腿骨頭靭帯(円靭帯)の内部にもあるのです。しかし、この血管は機能血管であり、栄養血管としての働きはほとんどありません。
回旋動脈の1/5程度の栄養しか供給できないと言われています。

 

頸部骨折 = BHAをやりましょうとなる

つまり狭義の頸部骨折において、回旋動脈が損傷している場合はすぐにBHAの適応になるのです。
ほとんどの頸部骨折においてこの回旋動脈は損傷されます。
そのためレントゲンで頸部骨折が確認された場合、このままでは骨頭が壊死してしまうからBHAを行い大腿骨頭を人工物に置換しましょう、となる訳です。

また、ここまで読んで頂いた方はお気づきだと思いますが、BHAの適応は正確に言うと、
「内側回旋動脈・外側回旋動脈の損傷がある骨折」
となる訳です。

ほとんどの大腿骨頸部骨折(狭義)ではこの2本の血管の損傷がありますので内側型の場合はBHAを行いますね。
ただ病院によっては造影剤を入れて本当に血管の損傷があるかどうかの確認を毎回行っている施設もあります。

今回はBHAの適応である狭義の頸部骨折について説明しました。

 

次回はインプラントの種類を紹介したいと思います。

 

⇐前の記事(BHAの適応1)

(THA・BHAにおけるインプラントの種類)次の記事⇛

 

記事一覧はこちら