THA・BHAにおける術野はどれくらい?

THA・BHAにおける術野はどれくらい?

THA・BHAにおける術野はどれくらい?

これまでの記事で「術野」という言葉が何回かでてきていると思います。術中に確保されている目で直接見える手術スペースという意味合いです。今回は術中の術野とは実際にどのようなものなのか、また術野に影響する因子を説明していきます。

 

前方系と後方系では術野が違う?

まずは前方系と後方系での術野の違いについて説明します。

THAは大腿骨側の処理と臼蓋側の処理を行いますよね。前方系と後方系で処理のし易さが異なります。

・臼蓋側の処理が行いやすいのは前方系アプローチです。

・大腿骨側の処理が行いやすいのは後方系のアプローチです。

理由は単純です。

 

前方系アプローチで臼蓋側処理が行いやすい理由は、

臼蓋はもともとやや前方を向いているため、前方系のアプローチの方が術野が確保されるからです。後方からの侵入では、前方を向いている臼蓋の処理は難しいです。

臼蓋はやや前方を向いている

臼蓋は斜め前方を向いている。そのため後方系より前方系のアプローチの方が術野が確保されやすい。

 

また後方系のアプローチで大腿骨側の処理が行いやすい理由は、

股関節を大きく屈曲し、後方へ向ければかなり術野が確保できるからです。逆に前方系アプローチでは伸展角度が大きくない事と、腹部が邪魔になり術野が十分に確保されません。

大腿骨の処理の術野

後方系のアプローチでは実際はもっと股関節を屈曲させて大腿骨の処理を行う。そのため大腿骨側の術野は確保されやすい。

 

臼蓋の処理の術野

逆に後方系のアプローチでは臼蓋が見えにくく術野の確保が難しい。

BHAは大腿骨側しかインプラントを入れないため臼蓋側の細かな処理は必要ありません(臼蓋についている大腿骨頭靭帯の処理等はある)。そのためBHAに選択されるアプローチは後方系が多いです。

また臼蓋側にカップを設置する必要があるTHAは、臼蓋側の細かな処理が必要なため前方系のアプローチで行われる事が多いです。カップ設置の重要性は(レントゲンから見る脱臼リスク1(CUP外転角))で説明しましたね。

 

実際の術野はどれくらい?

それでは手術中の実際の術野はどれくらいなのでしょうか?

後方系アプローチでの術野を確認してみましょう。

実際の術野(後方アプローチ)

点線で示したのが大腿骨。図の下方の黒い糸で引っ張っているのは付着部を切開した外旋筋である。

少し分かりにくいので、関節包の内側つまり大腿骨頸部がどの範囲で見えているかを色で示したのが下の図になります。

実際の術野(後方アプローチ)着色

めくった外旋筋付着の関節包が一部骨頭付近に被っているが、術野として着色した。

大腿骨頸部が少し見えるのがわかります。想像していた術野より小さかったのではないでしょうか?実際のオペではこの手術スペースでオペを行っています。THA・BHAでは大腿骨の頸部が露出されなくては手術ができませんからね。

大腿骨の術野が大きい後方系でこの狭さですので、MIS(最小侵襲手術)などでは皮切からは処理する骨が見えない場合があります。その場合はCアーム型の放射線透視撮影装置を使います。いわゆる「イメージ」と呼ばれている移動型のレントゲン装置のようなものです。

Cアーム型放射線透視装置

放射線を放出するため術中のプロテクター装着は必須。

整形外科では外傷のオペで使用されることが多く、人工関節等の関節のオペにはあまり使われることはありません。MISのような皮切の小さい場合のみですね。

ちなみにTHAでのイメージはこのような感じになります。

術中のイメージ使用(THA)

カップの設置位置(臼蓋リーマーで削る位置)が適切か見ている。

臼蓋側をリーマーで削る場面です。イメージですと2DですのでAP(前額面)・ML(矢状面)の両方で投影してそれを頭の中で3Dにして確認します(上図はAP撮影)。右側に写っている尖った器械はレトラクターですね。

このように狭い術野で直接処理部分が見られない場合はイメージにて投射された画面を見ながらの処理を行う場合もあります。

 

今回は、手術での術野に関して少し知って頂ければ幸いです。

 

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